塀のない刑務所
「塀のない刑務所」と言えば、先日逮捕された脱走犯の平尾受刑者が、松山刑務所の大井造船作業所という「塀のない刑務所」から脱走したしたことで、巷間の注目が集まった施設だ。平尾受刑者は、日中は一般の人と一緒に作業し、それ以外の時間も、塀はもちろん鉄格子もついていない寮のようなところで過ごしていた。
こうした「塀のない刑務所」は、現在、それぞれ特徴に違いがあるものの、松山以外にも網走、平岡、広島の4か所に設けられている。
どうして、こんな刑務所があるのか。そこには、受刑者の自立心を促すことで、刑務所を出た後の再犯率を減らす狙いがある。2012年、交通事故の過失犯を除いた一般刑法犯の再犯率は45.3%であるが、大井造船作業場では2010年から5年間の平均再犯率は2.2%と著しく低い。海外に目を転じてみると、フィンランドでは開放型刑務所を導入したことで再犯率が大幅に低下したことから、現在では「塀のない刑務所」が多数設置され、刑務所の外での職業訓練など再犯防止に向けた様々な取り組みが行われている。
その一方で、脱走の懸念は大きい。平尾受刑者が服役していた刑務所では、これまで17件、20名の逃走事案があり、中には逃走中に人質をとるような事件も起こっている。
やっぱり塀は必要なのか。短絡的に結論を導く前に、看守の指導の厳しさや受刑者同士の人間関係に耐えられなかったという平尾受刑者の供述に耳を傾ける必要がありそうだ。塀のない刑務所は、普通の刑務所以上に規律が厳格で、受刑者同士の上下関係も厳しいと言われている。それが再犯率の低下につながっているわけだが、受刑者が脱走する動機にもなっているとすれば由々しき問題だ。安易に塀を設けるのではなく、日常生活の管理のあり方を検証し改善することが求められる。
法務省は平尾受刑者の事件をきっかけに再発防止策に取り組んでいるが、例えば受刑者にGPS バンドの装着を義務付ける代わりに、日常生活の管理の仕方を見直すなど、抜本的な対策を打ち出して欲しい。
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