イー・ウーマン円卓会議参考資料「保険比較の法律学」
来週1週間、佐々木かをりさんが代表をされているイー・ウーマンのHP上で、円卓会議の議長をさせていただくことになりました。テーマは、「自動車保険、比較して買っていますか?」です。そこで、その参考として、保険商品の比較に関する法律について解説してみたいと思います。
保険商品の募集行為(販売・勧誘と契約締結の媒介ないし代理)は、保険業法およびその施行規則と、金融庁が定める保険監督指針によって規律されています。
それらによれば、保険商品の募集行為ができるのは、保険会社等およびその役員、保険募集人(保険代理店を含む)、保険仲立人およびその役職員などに限られ、しかも、その勧誘方法等については厳しいルールが設けられています。
その中で、保険商品の比較に関するルールとしては、保険業法300条1項6号の規定があります。それによれば、保険の募集を行う者は、「保険契約者若しくは被保険者又は不特定の者に対して、一の保険契約の契約内容につき他の保険契約の契約内容と比較した事項であって誤解させるおそれのあるものを告げ、又は表示する行為」をしてはならないものとされています。
文言からも明らかなように、この条文は、保険商品の比較を全面的に禁止したものではなく、「誤解させるおそれのある」比較を禁止したものにすぎません。しかし、何がその基準に抵触するのかが曖昧であるため、保険会社は、保険募集人等に対し、他社の保険商品との比較を行わないに指導してきました。保険募集人等が保険募集の際に文書等を用いようとする場合には、その内容について保険会社の許可を得なければならないものとされているため、保険会社は、他社商品との比較を含む募集文書の使用を禁止してきたわけです。
このことは、一見すると法令を遵守するための止むを得ない措置のように見えますが、その背景には、他社商品と比べられることで自社商品の欠点が露わになることを避けたいという保険会社の思惑も見え隠れしています。もしも、それが本音だとするならば、保険会社が行ってきた保険比較の抑制措置は、自社の利益を、消費者の利便性に優先させたものと批判されても仕方がない面があります。
そこで、金融庁は、平成17年4月に「保険商品の販売勧誘のあり方に関する検討チーム」を設け、保険商品の比較のあり方を検討しました(関連する報告書はこちら)。その検討結果は、保険監督指針に直ちに反映され、「誤解させるおそれ」のない比較の仕方が明記されました(Ⅱ-3-3-2 生命保険契約の締結及び保険募集(6)法第300 条第1 項第6 号関係、Ⅱ-3-3-6 損害保険契約の締結及び保険募集(6)法第300 条第1 項第6 号関係)。また、この検討チームの報告書では、保険比較の推進に向けて協議会を設けることが提言され、生命保険業界と損害保険業界とが一体となって消費者や保険募集人の方々と熱心な意見交換が行われました。
このような形で金融庁のルールが明確化され、協議会を通じてその必要性が共有されたことから、保険商品の比較が進むものと期待されましたが、実際には、思うように進んでいないのが現状です。そんな中、昨年、損害保険協会は、協会内に根強い反対意見があるにもかかわららず、自らのホームページ上に、自動車保険商品の比較サイトを開設しました。消費者の利便性向上という観点から、この試みは大変画期的なことであったわけですが、マスコミ等でほとんど取り上げられなかったこともあり、残念ながら十分に利用されないまま今日に至っております。
なお、保険仲立人の場合は、保険会社から独立して(消費者の側に立って)保険契約の締結を媒介する立場にあることから、「誤解させるおそれ」がない限り、自由に保険商品の比較を行うことができます。しかしながら、我が国の保険仲立人制度は、媒介を行うために作成しなければならない書類が多く、費用の面で採算が取れないことから、家計保険(家庭用の保険)の分野ではほとんど媒介を行っていないのが現状となっています。
以上の状況を踏まえて、金融審議会は、保険の基本問題に関するワーキング・グループを設置し、保険募集のあり方について更なる検討を加えておりましたが(中間報告はこちら)、政権交代以降、金融審議会が開催されなくなったため、議論は中断したままとなっています。
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