法学セミナー6月号で「金融と法」について学生向けに解説しました
法学セミナー6月号の特集は「不況日本の経済社会と法律問題」です。一橋大学法科大学院院長で消費者委員会委員長の松本恒雄先生が序文「経済社会における法」をお書きになられたのを受けて、複数の執筆者によって、消費者、雇用、企業、金融といった各テーマついて、分析が試みられています。ただし、初学者向けの入門特集という位置づけから、その内容はいずれも平易なものとなっています。
私の担当は「金融と法」。銀行に対する自己資本比率規制を取り上げて、銀行はなぜ厳しい監督に服する必要があるのかを解説しています。その上で、自己資本比率規制と「貸し渋り・貸し剥がし」と呼ばれる現象の関係を検討しつつ、亀井静香金融担当大臣の肝いりで制定された「中小企業金融円滑化法」について、批判的に検討を加えました。
「中小企業金融円滑化法」は、中小企業の側が貸付け条件等の緩和を求めてきた場合には、可能な限りそれに応ずるよう金融機関に努力義務を課した法律です。努力義務である以上、条件緩和に応ずるかどうかは金融機関側の裁量に委ねられますが、他方において、その相談と対処の状況について公に開示すべきものとされていることから、一定程度のパブリック・プレッシャーがかけられる仕組みとなっています。
私は、この法律を次のように評価しました。
「自己資本比率規制というルールによって、銀行の貸出し行動に『歪み』が生じているのだとすれば、ルールを弾力的に運用することによって、『歪み』を是正するのは合理的である。しかし、この論理が成り立つのは、『健全』な企業への貸出しがその『歪み』によって『不健全』なものと評価されてしまっている場合に限られる。『不健全』な企業は、どんなにルールを変更しても『不健全』であることには変わりがない。にもかかわらず、ルールの変更によって、それを『健全』な企業とみなすのだとすれば、それはいかにも危険な論理である。5段階評価でBだった人が、3段階評価にしたらAになったからといって、頭が良くなったわけでないことは、小学生でもわかる論理だ。」
「資本主義経済においては、不健全な企業は淘汰され、より有益な企業に経営資源がシフトされることが大切なのであって、それこそが社会の成長のプロセスである。もし仮に、事実上の強制力を及ぼして、銀行に対し無理な条件緩和を強要するような事態になったとすれば、社会の健全な成長は蝕まれてしまうだろう。それは危険な『麻薬』であって、一時的に楽になった気がしても、いずれは廃人と化すだけだ。」
こうした理解を前提に、本稿は、中小企業金融円滑化法によってゾンビ(幽霊)企業が延命され、不良債権の山が築かれることのないように警告を発する形で締めくくられています。
なお、同じ特集の中で、(独)経済産業研究所上席研究員の鶴光太郎氏が「経済学からみた法」という論稿をお書きになっていますが、その締めくくりのパラグラフには、「法制度を無理矢理変えて、関係者の行動パターンを変化させるのは、『いやがる犬の首輪を引っ張り別の方向へ向かわせることに』似ている。」という文章が出てくることを、付言しておきます。
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コメント
法学セミナー拝読させていただきました。学生向けとあって大変読みやすかったです。
中小企業金融円滑法の良い点と悪い点を今更ながら、理解することができました。
いつか来た道に戻らないよう、金融法の勉強もしてみたいと思います。
投稿: panda | 2010年8月 7日 (土) 18時25分