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2009年8月

ニッポンの思想

佐々木敦氏の『ニッポンの思想』(講談社現代新書)を読みました。1980年代から90年代を経てゼロ年代に至るまでの日本の思想について、その変遷を分かりやすく通覧した本です。

筆者は、自らのことを、カルチャー/サブカルチャーを主な対象として批評活動を行っている評論家であり、「ニッポンの思想」の担い手でもなければ専門的研究者でもないと述べていますが、リアルタイムで沢山の思想本を読み込んできたことがわかる力作だと思います。

まずは、浅田彰、中沢新一を中心に、いわゆるニュー・アカデミズムとは何だったのかを分析した後、同じく80年代の思想家を代表する蓮實重彦、柄谷行人の主張が解明されています。その上で、90年代の主役である福田和也、大塚英志、宮台真治の活動が紹介された後、ゼロ年代ではなぜ東浩紀の「ひとり勝ち」になったのかを検討しています。

同じ時代に生き、同じように彼らの思想に興味を持ってきた者として、佐々木氏とは異なる「読み方」をしてきた部分もありましたが、全体として、分析は明快で、なるほどと思わせる興味深いものでした。

「あとがき」によれば、佐々木氏自身、『未知との遭遇』というタイトルの思想書を準備中とのこと。今度は、思想の単なる「読者」としてではなく、思想家としてどんな力量を見せてくれるのか、今から楽しみです。

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民主党の公開会社法

雑誌フィナンシャル・ジャパンに毎月連載しているコラム「会社法がわかれば商売がわかる!」。21日発売の2009年10月号で取り上げたのは、「民主党の公開会社法」です。

7月23日の日本経済新聞に興味深い記事が掲載されました。民主党が次期衆院選のマニフェストで掲げる「公開会社法」の詳細が明らかになったというものです。この記事に紹介されている民主党案を、私は、「和食器の上にジャンクフードを載せて、シンケン&ケーゼ(ドイツ語でハム&チーズ)をまぶしたような奇妙な印象を禁じえない。」と評しました。いったいなぜそう思ったのか。詳しくは雑誌をご覧ください。

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年金問題で産経新聞にコメント

産経新聞朝刊1面に「【09衆院選】選択の焦点(1)年金 民主は改革先送り、自民の“約束”も疑問」という記事が掲載されました。その中で、民主党が進めようとしている、8.5億件の紙台帳とオンラインデータ上の年金記録との照合について、次のようにコメントしたことが報じられました。(↓)

 「オンライン化後に記録更新されているケースもあり無駄な作業」(野村修也中央大法科大学院教授)といった厳しい見方もある。

私の主張について詳しくは、拙著『年金被害者を救えー消えた年金記録の解決策』(岩波書店)をご覧いただければ幸いです。

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テレビ寺子屋で「金融ADR」を取り上げました

日テレNEWS24まーけっとNaviで放送中の「テレビ寺子屋」。今週は、金融ADRを取り上げました。この制度の導入に当たっては、金融審議会の委員として審議に参加していましたので、解説には少々熱がこもりました。

主な内容は次の通りです。

今年の通常国会で金融商品取引法をはじめとする各種の業法が改正され、金融ADRに関する法整備が行われました。ADRとは裁判外の紛争解決手段で、仲裁、調停、斡旋といった手段を用いながら、中立的第三者が介在する形で民事紛争の解決を図るものです。裁判に比べ、安易・迅速・安価といったメリットがあると同時に、非公開であるためプライバシーや企業機密を守りやすいといった特徴も備えています。また、専門性が高いため裁判官では合理的な判決を下しにくい分野でも、専門家にADRを頼めば納得感のある解決策が示される可能性もあります。さらに、必ずしも法律にとらわれないため、内部調査・再発防止・謝罪などといった通常の裁判では命じられない内容を、和解の条件とすることもできます。

これまでも、法務省が所管するいわゆるADR促進法や、金融庁が所管する金融商品取引法などを通じて、ADR機関に一定のお墨付きを与えると同時に、時効中断などといった特別な効果を与える方策が講じられてきました。しかし、それらの法律では、ADR機関が示す和解案に拘束力が与えられていないため、効果的な紛争可決が図りにくいといった限界が存在していました。

今回新設された金融ADRの場合は、金融機関があらかじめADR組織と契約を結び、そこが示す和解案を尊重することを約束することが要求されます。施行は1年半近く先になる見通しですが、このことによってADR機関は金融機関側から裁判に持ち込まれることを心配しなくて済むようになりますので、裁判準拠型ではない新しいタイプのADRを促す契機になるものと予想されます。

詳しくは、動画をご覧ください→こちら090819016_188x141 

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郵政民営化に関して毎日新聞にコメント

2006年から現在に至るまで、郵政民営化委員として民営化プロセスを監視してきました。その立場から、郵政民営化に関してコメントさせていただきました。
   ↓
http://mainichi.jp/select/seiji/news/20090813ddm002010040000c.html
私はこう見る:09衆院選/5 日本郵政 野村修也氏
 ◇4分社化を堅持せよ--中央大法科大学院教授・野村修也氏
 日本郵政グループは、全国2万4000局の郵便局とユニバーサルサービスを維持し、雇用を守りながら収益を上げなければならない。バランスを取るのは難しいが、それを理由に民営化を批判するのは誤りだ。
 4分社化を見直す必要もない。郵便局会社は別会社だからこそ、自由にビジネスができる。ゆうちょ銀行やかんぽ生保に「良い商品を作らなければ、他社の商品を売る」と競争を持ち込み、自動車保険や損害保険を売ることもできる。 
 公益性が高いから収益を最優先にできず、ビジネス上の制約があるというなら、それは電力会社も同じだが、彼らは経営努力で乗り越えている。郵便事業会社も公益サービスを担う高い信頼でブランド力を高め、経営に生かせばいい。

 グループ内には、収益アップのプレッシャーへの恐れや不満がある。見直すべきは、この姿勢だ。

 そのためにも持ち株会社と金融2社の株式の売却は予定通り進めるべきだ。経営者は上場という厳しい試験に向けて収益力を上げ、コンプライアンス(法令順守)を徹底する。持ち株会社が上場すれば、郵便事業、郵便局の2子会社への株主の関心は高まり、市場の評価を受け経営は向上する。株式売却を凍結すれば経営者に逃げ道をつくることになる。
 経営トップの評価は企業価値を高めているかどうかだ。「かんぽの宿」の売却は急ぎはしたが、西川社長は収益をあげている。落第点ではない。

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動物化するポストモダン

講談社現代新書の『動物化するポストモダン』を読みました。わが国における「ゼロ年代」の思想家たちの中で圧倒的な存在感を示す東浩紀が、2001年に出版した本です。東といえば、『思想地図』や「ゼロアカ道場」が有名ですが、デビュー作は、言わずと知れた『存在論的、郵便的ージャック・デリダについて』(新潮社、1998年)で、1980年代に「ニュー・アカデミズム」という名の旋風を巻き起こした浅田彰をして「『構造と力』が完全に過去のものとなった」と言わしめたお堅い本です。その東が、アカデミズム的な批評の殻を破って颯爽と走り出すきっかけとなったのが、この『動物化するポストモダン』という大衆向けのベストセラーでした。

ごく大雑把に言うことが出来れば、70年代までのわが国では、まだ「大きな物語」(ジャン=フランソワ・リオタール/小林康夫訳『ポスト・モダンの条件』(水声社、1989年)参照)が信奉され、目の前にある「小さな物語」をこの「大きな物語」に繋げて見せるのが「学問」だと考えられていたように思います。

その後、連合赤軍事件を経た80年代のわが国では、部分的なポスト・モダンの現象として、「小さな物語」を通じて「大きな物語」を消費する時代がやってきました(大塚英志『物語消費論ー「ビックリマン」の神話学』参照)。オタク文化の始まりや、カルト宗教の蔓延などが、その象徴的な現象だったと言えるでしょう。

しかし、それもオウム事件によって見事に打ち砕かれました。そして今、急速なインターネットの普及と、それを中心に据えたクラウド・コンピューティングの時代を迎え、ポスト・モダンが全面的に浸透する状況に至りました。そこに見られる現象は、背後にあったはずの「大きな物語」が不要となり、単にデータベース化した「大きな非物語」が、即物的に消費されるといった姿です。そこに生息するのは、本能の赴くままに餌に群がる「動物」化された人間たちというわけです。

「動物化」という言葉は、もともとはヘーゲルの研究者であるアレクサンドル・コベェーヴの造語です。彼によれば、「歴史の終焉」後の人間が生きる道は、意味もなく腹を切る日本的なスノビズムか、アメリカ型消費社会にみられる「動物への回帰」しかないと述べましたが、東は、現代のニッポンの中にむしろ「動物化するポスト・モダン」を見出しました。

スタティックな差異の体系を重んじる社会から、ダイナミックな「差異化」の運動を通じて果てしなく過剰を生み続けることを肯定的に描ききった浅田彰の『構造と力』を、大学生の時にリアルタイムで読んだ私は、「真に遊戯するためには外へ出なければなら」ず、近代は「まだ十分に外へは出ていない・・・外へ出よ。さらに外へ出よ」という彼のメッセージを、気にかけ続けています。

東氏のおかげで、またひとつ迷路に迷い込みました(笑)。

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チーム・ポリシーウォッチ

今朝の新聞各紙には、「新しい日本を作る国民会議」(21世紀臨調)主催の政権公約(マニフェスト)検証大会の記事が載っています。私が参加している「チーム・ポリシーウォッチ」からは、慶応大学の岸博幸教授が登壇。両党ともに、財政再建の枠踏みが不明確であることや、大衆迎合的なバラマキ公約に陥っていることなどを批判しました。

格差是正や安心・安全も大事ですが、分配の源を大きくするための「成長戦略」がなければ、国家の財政は疲弊し、やがて破綻してしまいます。民主党は、最低賃金を1000円にすると公約していますが、全国平均が700円前後である現状を踏まえれば、パイを増やさない限り、3人に1人を雇い止めにするしか実現の方策はありません。

経済成長は、分配の源を増やすと同時に、国家の税収の増加をもたらことで、日本の持続可能性を支えることになります。財源なきバラマキや、表面的な格差是正は、単なるモルヒネにすぎません。経済成長の担い手のインセンティブを損なうことなく、他方で、公平感のある社会を実現していくことを、次の政権には期待したいものです。

ちなみに、私以外のチーム・ポリシーウッチのメンバーは、次の通りです。

代表 竹中平蔵 (慶應義塾大学教授)

跡田 直澄 (嘉悦大学副学長)
加藤 寛 (嘉悦大学学長)
岸 博幸 (慶應義塾大学教授)
木村 剛 (株式会社フィナンシャル代表取締役社長)
冨山 和彦 (株式会社経営共創基盤代表取締役社長)
ロバート・フェルドマン (モルガン・スタンレー証券マネージング・ディレクター)
松原 聡 (東洋大学教授)  

====イベントのお知らせ====

チーム・ポリシーウォッチ at アカデミーヒルズ
衆院選マニフェストを斬る ~政権担当能力を問う~

<開催日時>

 場所 アカデミーヒルズ(六本木ヒルズ森タワー49階)
 日時 2009年8月12日(水) 18:30-20:30*
 *終了時間は変更される可能性があります

 チームポリシーウォッチがアカデミーヒルズで行うイベント第5弾は、「衆院選マニフェストを斬る~政権担当能力を問う~」というテーマで開催。チームのメンバーが経済政策の専門家、エコノミストの視点でそれぞれのマニフェストの内容を分析・評価し、政権担当能力という点からどちらがふさわしいのかを明確にします。また、自民党・民主党の代表者を招いての公開討論も予定しています。

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読売新聞にコメント

本日の読売新聞朝刊のトップに、「予算ムダ点検の「中止」を文科省が要求」という記事が掲載されました。

 記事の内容は次の通りです。

http://news.nifty.com/cs/domestic/societydetail/yomiuri-20090809-00021/1.htm

 予算を効率的に使っているかどうか政府が自己点検する「政策評価」制度を巡り、文部科学省が現在進行中の手続きを停止するよう所管の総務省などに求めていることが8日、明らかになった。

 民主党が政権を獲得すれば手続きが不要になる可能性などを理由に挙げている。他省庁からは、閣議決定に基づいて予算の効率化を目指す手続きを一省庁の判断で停滞させるのは不適切との指摘が出ており、今後論議を呼びそうだ。

 問題となっているのは、政策評価で毎年焦点となる重要対象分野の選定手続きだ。重要対象分野は、政策評価・独立行政法人評価委員会(総務相の諮問機関)が7月末、「中小企業の生産性向上」「学力の底上げ」など七つの候補を示した。学力問題については社会問題化した学力低下が格差社会にもつながるとして俎上に載せた。経済財政諮問会議が年内に最終的に選定する。

 総務省は7候補を所管する9省庁に対して9月中旬に聞き取り調査を実施する予定だが、文科省だけが手続きの停止を求めて日程調整に応じていない。

 文科省政策課評価室は読売新聞の取材に対し、「重要対象分野は各省庁にまたがる政策を選定するべきだ。『学力の底上げ』は文科省の専管なので選定しないよう求めた」と説明している。

 しかし、文科省の担当者が各省庁あてに出した文書などによると、〈1〉政党によっては諮問会議の廃止を政権公約(マニフェスト)に明記している〈2〉諮問会議が廃止されれば重要対象分野の根拠がなくなる――などと指摘。そのうえで「選挙後の政府方針が決定するまで拙速となりかねない動きを避けるべきだ」「準備を進めても担当課に多大な負担をかける」と主張している。民主党が諮問会議の廃止と首相直属の国家戦略局の新設を公約に掲げたことを念頭に置いているとみられる。

 民主党は「歳出のムダ排除」を徹底すると公約に掲げている。

 中央大法科大学院の野村修也教授は「政策評価の目的は政府の業務改善にある。政権交代の可能性を理由に停滞させるのは混乱に便乗して職務を放棄したいだけとも受け取れる」と指摘している。

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 この種の記事が出ると、先生はどうして公務員関係の記事でコメントを求められるのかと聞かれます。その訳は・・・・

 中央省庁の中で初めてコンプライアンス対応室(現・法令等遵守調査室)が出来たのが、2003年のこと。以来、現在に至るまで、その室長として民間人ながら行政の監視を続けています。2006年からは総務省でも同じく法令等遵守調査室長としての仕事に従事しています。その延長線上で、社会保険庁の調査にも従事することになりました。

 また、政府の公務員制度改革の議論(官民人材交流センターの有識者会議)にも参加させていただきました。その経験を踏まえて、日本経済新聞の経済教室に「能力主義で『ぬるま湯』脱せ」という論稿を掲載していただいたことがあります。この記事は、日本経済新聞社編『日経経済教室セレクションⅠ』(日本経済新聞社出版社)335頁以下に掲載されています。興味があったら読んでみてください。

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遠足(社会科見学)

中央大学法学部で私のゼミナールを受講している3年生・4年生と一緒に、社会科見学に行ってきました。私のゼミでは、この企画を「遠足」と呼んでいて、毎年この時期に実施しています。今年は、午前中に東京証券取引所を見学した後、午後から日本テレビ、そして夕方から森・濱田松本法律事務所を訪問しました。ご協力いただきました皆様に心より感謝申し上げます。

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テレビ寺子屋で「一票の格差」を取り上げました

衆議院選挙では最大で1票対0.44票の開きがあり、参議院選挙ではなんと最大で1票対0.2票の格差があります。それに対して、最高裁はどのような立場をとっているのか、詳しく解説しました。

加藤さんの「格差を解消すれば地方の利益が守られにくくなのでは?」という質問に対して、「地方の利益は、例えば地方分権を推し進めるなどといった正攻法で守られるべきであって、あえて格差を温存させるべきではない」と答えましたが、皆さんはどう思われますか。

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 動画をご覧になりたい方は→こちら

*毎週水曜日の朝9時から、日テレNEWS24のまーけっとNavi という番組の中で、「野村修也のテレビ寺子屋」というコーナーを担当しています。過去の放送内容をお知りになりたい方は、こちらへどうぞ

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朝日新聞に広告

本日の朝日新聞1面の書籍広告欄に、拙著『年金被害者を救え』(岩波書店)が掲載されました。感謝!

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読売新聞でコメント

本日の読売新聞朝刊13面に年金記録問題に関する特集記事が掲載されました。その中で、「記録の修復は手段であって目的ではない。被害者の多くが高齢者であることを考えると、救済の幅を広げることで、記録を修復せずとも被害者全員を救済できるようにすることが重要だ」という私のコメントが掲載されました。

社会保険庁のコンピュータ上の年金記録と紙台帳との突合せにこだわる民主党およびそれに応じる政府・与党に対する批判です。

「被害に気がついていない人を見つけ出す必要があるというならば、各人による記録確認を充実させればよい。例えばボランティアでお年寄りの記録確認を手伝うといった国民運動を広げるなど、温かいサポート体制を促してはどうか」といった類のコメントもしていたのですが、紙幅の都合上やむなくカットとなりました。せっかくですので、この点についても、併せて検討してみていただければと思います。

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21世紀臨調による「政権実績検証大会」

 学者や経済人らでつくる「新しい日本をつくる国民会議」(21世紀臨調)主催の政権実績検証大会で、民間のシンクタンクなど9団体が、前回総選挙以降の自公連立政権の「政権運営実績」と「政策実績」をそれぞれ100点満点で評価しました。

 私がメンバーになっている「チーム・ポリシー・ウオッチ」の付けた点数は45点で、9団体中4番目に低い評価となりました。

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